歌詞の意味・考察

米津玄師「海の幽霊」歌詞の意味・解釈・考察まとめ

ライター:chikako.m 40代女性
米民歴:1年

 

米津玄師「海の幽霊」歌詞全文

歌手・作詞・作曲:米津玄師

 

開け放たれた この部屋には誰もいない

潮風の匂い 滲みついた椅子がひとつ

あなたが迷わないように 空けておくよ 軋む戸を叩いて

なにから話せばいいのか わからなくなるかな

 

星が降る夜にあなたにあえた あの夜を忘れはしない

大切なことは言葉にならない 夏の日に起きた全て

思いがけず光るのは 海の幽霊

 

茹だる夏の夕に梢が 船を見送る

いくつかの歌を囁く 花を散らして

あなたがどこかで笑う 声が聞こえる 熱い頬の手触り

ねじれた道を進んだら その瞼が開く

 

離れ離れてもときめくもの 叫ぼう今は幸せと

大切なことは言葉にならない 跳ねる光に溶かして

星が降る夜にあなたにあえた あのときを忘れはしない

大切なことは言葉にならない 夏の日に起きた全て

思いがけず光るのは 海の幽霊

 

風薫る砂浜で また会いましょう

 

 

米津玄師「海の幽霊」の誕生背景

米津玄師さんは、高校を卒業するまでは地元の徳島県で過ごしました。

徳島県の地元は、漁港に近い素朴な土地柄で、触れられる文化は限られていました。

米津玄師さんは、高校を卒業した18歳の時に、地元の徳島県から大阪府という都会に出てきた時に、文化の違いやスケールの大きさの違いに衝撃を受けて、大阪という街であらゆる文化を吸収することに、のめり込むようになります。

その時に、大阪のとある大きな書店で、一冊の漫画に出会い、その漫画の圧倒的な描画のレベルの高さに驚嘆しました。

その漫画こそ、『海の幽霊』が主題歌に起用されたアニメーション映画『海獣の子供』の原作である、五十嵐大介さんの漫画『海獣の子供』だったのです。

米津玄師さんは、一時期、将来は漫画家を目指していたことがありました。

ですが、五十嵐大介さんの絵を見て、自分は生涯を懸けてもこのレベルの絵には到達することが出来ないと、漫画家になることを諦めたのです。

同時に、米津玄師さんにとって、漫画『海獣の子供』は絵だけではなく、ストーリーにも多大な影響を受けました。

18歳、大阪のとある大きな本屋でのこの出会いが、音楽家「米津玄師」が誕生する原点になりました。

『海の幽霊』は、10年前から既に、曲の根底にあるものは姿を現して始まっており、2019年に完成するまでの時を経て、辿り着いた作品なのです。

 

米津玄師「海の幽霊」のタイトルの意味

私たち人間は、陸と海、どちらの住人だろうかと捉えた時に、『海の幽霊』のタイトルの意味が見えて来ます。

私たち人間は、水中では生きていけません。

陸の上でしか、生き延びていけません。

陸と海、その境目が私たち人間にとって、生と死の境目なのです。

つまり、「陸=生」、「海=死」であるのです。

米津玄師さんにとって、海は、幼い頃に見た「海の生き物の図鑑」で見た、深海に住む大きなダイオウイカが獲物に触手を伸ばしているイメージと、符合しているのです。

そのイメージは強烈で、ずっと、米津玄師さんの胸の内にあります。

ダイオウイカの目は大きく見開き、陸の生き物である私たち人間達のすべてを見透かしているかのような、ギラリとした目をしています。

海には、ダイオウイカを始めとして、得体の知れない生物たちが、陸の住人である私たち人間を、特徴的な大きな目で見つめているのです。

陸が人間の生の象徴ならば、海は死、異形なもののすみか、として象徴されます。

私たち人間にとっての身近な死は、親しい人、愛する人の死です。

『海の幽霊』とは、今はもう生きていない、親しかった愛する人のことなのです。

 

米津玄師「海の幽霊」のストーリー展開

今はもう、陸には住んでいない、海の住人となってしまった、親しかった愛する人。

その愛する人を迎えるために、波打ち際に置かれた小さな椅子が、ぽつんとただ、波に打たれている。

その小さな椅子を家に持ち帰って、がらんとした、何もない部屋に置いておく。

愛するあなたを、待つために。

待ち続けた、ある夏の夜、愛するあなたが、私のもとへ来てくれた、かすかなサインを感じたのも束の間。

あなたは、私に微笑みながら、船に乗って、再び、海の住人へと帰ってしまう。

海こそ、あなたが本当に居るべき場所だと、私は感じる。

今は、海と陸、別々の住人になってしまった、あなたと私。

あなたが幸せだと言うのなら、私も幸せだと伝えたい。

夏の夜、たった一瞬、あなたを感じた、この瞬間のためだけに、私は陸で生き続けていく、あなたがいなくても。

なぜなら、再び、あなたと私は、海と陸の境目で、会えることを私は知っているから。

 

米津玄師「海の幽霊」の歌詞の意味・考察

ここまで、ひも解いてきた『海の幽霊』について、歌詞に込められたメッセージを考えてみましょう。

喪失と再生の中で生きるしかない私たち

私たち人間にとって最大の矛盾は、「死ぬことを知っているのに生きていること」です。

死だけが、私たち人間の、確実な未来です。

私たちは、そのことを知っているのに、いたずらに時間を過ごしています。

私ぬことは理解しているのに、感じることが出来ないでいるのです。

愛する人の死でさえ、私たちは、鈍感でいようと、無意識にしてしまうのです。

死ぬということの、本当の意味がわからないまま、私たちは生きて、死んでいきます。

死んだことに、気が付かずに。

無力な私たち人間に出来ることは、ただ、愛する人と再び会えるという、希望を持つことだけです。

私たち人間は、生と死を、延々と続けていくことしか出来ないけれど、誰かを愛したことで、たったひとつの希望を持つことが出来るのです。

米津玄師さんは、私たちに、そのメッセージを投げかけ、生と死、愛する人について、考える手がかりをさがすように、美しいメロディーと共に、『海の幽霊』で伝えてくれているのです。